今回は往年のポストロックシーンを代表する名盤を10作品まとめてみました。
日本のポストロックから世界のポストロックまで、王道と呼ばれるポストロックからエレクトロニカに寄り添ったもの、実験音楽的なものまで様々な形のポストロックバンドを集めたので、まだポストロックを聴きはじめたばかりという方から聴きなれている方まで楽しめるかと思います。ぜひ最後までご覧ください。
目次
Tortoise – TNT
能ある鷹は爪を隠してこんなジャケットにしちゃう。全く隙のないポストロック史に残る名盤
ドラムだけでこんなに囁くように歌えるの…?と驚いている間に、心地よい自然な音に飲まれ、どこまでも運ばれ、まるで森林浴をしているような気分になるほどの表題曲『TNT』に始まる本作「「TORTOISE / TNT (CD)」
」。トレードマークはメンバー、ジョン・ハーンドン(彼はイラストを手掛けるアーティストとしても活動しています)がレコーディング中に描いたという落書きが採用された、脱力したようなリラックス感あふれまくる絵のジャケットです。
なんですが、内容自体は全くゆるくなく、静かなるプログレッシブというか、シンプルな音ながら隙のない楽曲構成、油断しているうちに遠くまで運ばれていくような曲展開、ジャンルの印象がコロコロ変わる様々な実験音楽的要素など、ポストロック史に残る名盤です。
個人的には、3曲目「Ten-Day Interval」は、スティーヴ・ライヒかと思うようなミニマル感が神がかっており、必聴です。またその後の4曲目「I Set My Face to the Hillside」の、気だるさがあるマカロニウエスタンの一場面のような、アルゼンチンタンゴを思わせるような展開から始まりいつの間にかまたミニマルに収束していく流れはマジで鳥肌ものです。かと思うと直後の5曲目「The Equator」ではいきなり近未来感のある打ち込み系の音になったりと、もう裏切られまくります。しかもアルバムを通して、聴けば聴くほど、すごい…と発見がありより好きになっていくという、本当に困ったアルバムです。
またレコーディングにおいても、コンピューター上に録音し音編集ができるPro Toolsによる録音が採用されて(今ではメジャーですが、リリース時の1998年という時代には先進的なチャレンジでした)いるという、ありとあらゆる意味においても金字塔的要素の強い1枚となっています。
Með Suð Í Eyrum Við Spilum Endalaust – Sigur Rós
光のもとで感じる喜び、祝福の讃歌
邦題は「残響」、「Sigur Ros シガーロス / Med Sud I Eyrum Vid Spilum Endalaust: 残響 【CD】」
。それまでが、例えるなら闇を見つめた先にあらわれる光のような、誰もの中に内在する普遍的で個人的なテーマを感じさせる傑作であったとすれば、このアルバムでは、そこから外に出て、風に揺れる草に触ったり、虫や鳥のさえずりを感じたり、誰かと手を繋いで草原を駆けたり…。というように、外の太陽の光のもと、ここに在る喜びを歌っているかのような印象です。「他者」の存在がきちんとあり、聴いている私たちも祝福されているのを感じられるような素晴らしさ、彼らがここまで全世界的なポップ・アイコンになるきっかけになったアルバムだと感じています。
また、洋楽であっても本題のまま発売されることがほとんどになった中でも、アイスランド語は我々日本人からは読み方の見当をつけるのも難しいため、「残響」という邦題が採用されています。
生きていることの儚さと力強さの讃歌のような1曲目と2曲目を聴くと、このバンドのことが好きになります。また、さらっと聴いていると気づかないまま過ぎていきそうなのですが、11曲目の「All Alright」は、バンド史上初めて英語で歌詞の書かれた曲です!
そして、今や全世界からラブコールを送られる写真家になった、ライアン・マッギンレーを世に知らしめたジャケット写真とPVも必見。お互いの描き出す世界が美しく共鳴した素晴らしいコラボレーションです。
Lift Your Skinny Fists Like Antennas to Heaven – Godspeed You! Black Emperor
壮大で静粛な物語りが、胸に灯をともしてくれるよう。類い稀なこのバンドの傑作
このアルバムに収録されている彼らの楽曲は、全て20分前後。もはや「一曲」のくくりにできないくらいの長さで、友達には勧めにくいほどの長さです。なのでオススメの曲は?と聞かれると彼らの事を説明するのが難しいのですが、名盤は?と訊かれるとまずオススメしたくなるのがこの人たち、Godspeed You! Black Emperprの「【輸入盤】Lift Your Skinny Fists Like Antennas To Heaven [ Godspeed You Black Emperor ]」
です。
アルバムを通して聴いた時に、よく言われる表現ではあるものの本当に一つの映画を観たかのような感動があります。これ1枚が1つのロードムービー。また彼らは、その活動のほとんどにインタビューやグッズ販売などの商売気を出さず、音源とライブのみに活動を集中する姿勢を貫いています。修道士のようなストイックさです。
ポストロック界の中では轟音系とカテゴライズされるその楽曲は、鍵盤やストリングスのようなギターやドラムの音、サンプリングの声などで構成され、静かに自分と向き合うようなトーンから、UFOに連れて行かれるようなノイズ音、時に楽団のような壮大なスケールで演奏されたりと、とにかくレンジが広いです。癒されるとか感動するとか言った言葉でははるかに収まりきらないような、圧倒的な音楽体験ができます。かえって眠れなくなるけど、時間のあるとっておきの日に、ベッドサイドでゆっくり音を浴びて欲しいような一枚。聴き始めたが最後、もうスイッチを切るタイミングはありません。
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