ファーストアルバム「何でもない凶器」
バンドアンサンブルによって、ダークな世界観を演出したスタンダードなロックサウンドとなっています。本人たちも影響を公言していますが「椎名林檎」あるいは「東京事変」を彷彿とさせる部分が非常に多いことがこのアルバムの特徴です。たねこの歌い方もそうですが、疾走するAメロから、タメの効いたBメロへの切り替えは、まさに椎名林檎が得意とする手法といえるでしょう。
セカンドアルバム「アナタソナタ」
前アルバムでのダークさが消えうせ、ポップで明るい楽曲が並ぶのがこのアルバムです。一方で、リズムワークや曲構成はさらに複雑化し、キャッチーなメロディーとは裏腹に演奏はスリリングで聴きごたえのあるアルバムに仕上がっています。たねこのヴォーカルは、前回のアルバムで用いた過剰なフェイクは使用せず、基本は響きを意識した綺麗なヴォイスで歌いあげています。
本人たちは「前作と二つで名刺代わり」と語りますが、この変化に戸惑ったファンも多かったようです。
サードアルバム「ココロココニ」
ロックに立ち戻るかたわら、キーボードの音色のバリエーションがさらに広がり、垢抜けた開放感のあるサウンドが特徴なアルバムです。アレンジが豊富なのは相変わらずですが、音数がさらに増え、豪華な仕上がりになっています。ロックな楽曲の中にもエレクトロニカやファンク、J-POPなどの要素を取り入れ、カオティックなサウンドとなっています。
以上のように、アルバムごとに楽曲のカラーが違い、一定のジャンルに留まる事はほとんどないと言えます。ただ、本人たちは「キャッチーであること」を重視していると語っており、言葉通り様々な形態を取りながらも一貫していることは、とても耳馴染みの良い、印象に残るメロディーを奏でている事です。
影響を受けたアーティスト
では、そんな惑星アブノーマルの多様性のルーツを探っていきたいと思います。
楽曲のソングライティングを担当するたねこは影響を受けたアーティストに椎名林檎、柴田淳、宇多田ヒカルを挙げています。それぞれ音楽ジャンルは違いますが、自らソングライティングを行うという点、それぞれのジャンル、世代で多大な影響力を持つアーティストという点で共通点がありますね。たねこ自身は、彼女たちの魅力を多種多様な音楽を表現できるところだと評しています。「自分の中にある物語を全部表現したい」と楽曲制作に対する姿勢を語るたねこにとって、様々な音楽を自在に使いこなす彼女たちは憧れであり、目標でもあるのでしょう。
つまり、惑星アブノーマルは作曲・作詞家であるたねこの自己表現の場であり、語られるストーリーによって、それを表現するための音楽も形を変えていくというスタイルが、その音楽性の根幹と言えそうです。
メンバーの特徴
それでは、楽曲を演奏するメンバーそれぞれの特徴を見ていきましょう。
「アレックスたねこの歌」
多種多様にアレンジされた楽曲を情感たっぷりに歌い上げるアレックスたねこの歌は、このバンドの象徴と言っても良いでしょう。
ら行を強調した巻き舌や喉の奥で声をひっかけるような歌唱法は、本人も影響を公言する椎名林檎からと考えられます。そのせいか、ネット上ではヴォーカルが椎名林檎の物まねのようだと揶揄するコメントなども見られますが、ベースの声質が異なるので、そう一概には言えないでしょう。椎名林檎が声帯をあまり開けない線の細い声質なのに対して、たねこは声量と響きに重きを置いた伸びのある声質です。たねこは、あくまでひとつの技として「林檎歌唱法」を実践していると考えることが妥当でしょう。
実際、「息衝く」などの曲では、巻き舌などは用いず、伸びやかに歌い上げています。多様性のある音楽を本懐とする惑星アブノーマルにおいて、たねこの声が一定せずに常に変化しているのは当然の事なのかもしれません。
「テナ・オンディーヌのキーボード」
とにかく音色のアイデアが豊富で、終始遊んだようなメロデイーで曲にからんできます。楽器が少ない曲ではシンプルなバッキングをこなす事もありますが、バンドアンサンブルの場合では必ずと言っていいほど、エフェクトをかけた音色で楽曲に彩りを与えます。ロック調の曲でも彼女の音色が入る事でテクノやダンスミュージックの要素が加わったり、ループ系のサウンドに早変わりするので、このバンドには欠かせない要素と言えますね。キーボードがギターなどの楽器のサポートを担わずに常に前面に出てくる事には賛否あるとは思いますが、元々、「聴いた事も無い音を出す」というところをたねこに気に入られた経緯からも、このバンドにおいての彼女の役割はそこにあり、無難なサポートよりも唯一無二の音色を奏でる事が、惑星アブノーマルにとって最も重要な仕事だと言えるでしょう。
詩世界
たねこ自身が奔放な性格をしているせいか、歌詞も人の痛いところやひ弱な部分を突いた独特なものが多いです。
特に好きな男にまったく振り向いてもらえず、振り回されるダメ女の曲を歌わせたら、右に出るものはいないのではないでしょうか?かといって、歌詞が暗くなる事はなく、報われない女の辛さやみじめさをとてもユニークに、シニカルにまとめており、非常にセンスを感じます。
おすすめのアルバム
「何でも無い凶器 – EP – 惑星アブノーマル」
記念すべきファーストミニアルバム。たたみかけるように疾走するロックサウンドと終始漂うアングラな空気で、耳に残る印象的な楽曲が多いです。アレックスたねこいわく、「一番出しやすい部分を寄り集めた」アルバムであり、統一された世界観は非常に完成度が高いといえる作品です。
一方で、「ずっと何でもない凶器にいるつもりはない」とも発言しており、その言葉通りこのアルバムのリリース後から、彼女たちの音楽性はどんどん変化していきます。そんなバンドの歴史の出発点を知る意味でも、おすすめのアルバムの1つです。
「何でもない凶器の楽曲紹介」
複雑なリズム変化にコミカルな歌詞が楽しい「フラレ唄」
荘厳なピアノの中を王道ロックリフで疾走するキラーチューン「月夜海水浴」
静かな立ち上がりから、ラウドに展開する「犬」
曲の雰囲気がセクションごとにくるくると変わり、ヴォーカルの器用な歌い分けが魅力の「神様ごっこ」
これらの楽曲を収録するのがこのアルバムです。少しでも湧いたのなら、是非聞いてみてください。
「ココロココニ – EP – 惑星アブノーマル」
3rdアルバム。本人たちは王道ポップを意識して作ったと語っており、その言葉通り、今までのアルバムに比べて明るくポップな楽曲が多いです。
今回のアルバムの特徴としては、音楽プロデューサーの鈴木Daichiをアレンジャーに迎えて制作されたという点ですね。テナいわく「アレンジャーさんに助けていただいたことによって、たねこの思い描いていたイメージが納得いく形になった」と語っており、本人たちがまた一歩、理想の音楽に近づいたアルバムと言えるでしょう。
「楽曲紹介」
うまくいかない恋の憂いをポップなロックチューンでたたみかける「ムテキの恋人」
エレクトロニカを思わせる電子系サウンドが心地よい「クローン」
ハネ系のリズムで軽やかに展開する「美術Ⅱ」
伸びやかなたねこのヴォーカルが魅力のバラード「息衝く」
人生を彼女なりのシニカルとポジティブさで歌い上げる「人生はロマンティック」
以上のラインナップを収録したアルバムとなります。
おすすめの楽曲
「ぬすっと – 惑星アブノーマル」
アルバム「何でもない凶器」のオープニング曲。印象的なブレイクで始まり、強烈なドラムのフィルインから一気に加速します。
途中に拍子が変わるセクションもありますが、リズムが変わってもノリを失わないのは、楽器陣の技術の高さでしょう。たねこのボーカルもしゃがれを強調したスモーキーな歌い方で、ロックサウンドによくマッチしています。ダークな世界観と王道ロックコード、フックの効いたアレンジとこのアルバムを象徴するような曲です。
「愛してやまない – 惑星アブノーマル」
アルバム「アナタソナタ」収録。
J-POPを思わせるスタンダードな歌ものですね。こういった曲をさらりと良曲に仕上げるあたりに彼女たちの音楽性の幅広さを感じます。とはいっても、もちろんただのJ-POPサウンドで終わるわけはなく、音数をどんどん増やしてアレンジ加えていくところは、十分に彼女らしい個性として曲に表れています。
「美術II – 惑星アブノーマル」
アルバム「ココロココニ」の収録。
ハネ系のリズムにどこか中華を思わせるメロディーが乗り、とても軽快な曲です。うねるベースとはねたドラムでノリを出し、その上にピアノ調のキーボードを自由に乗せていくという奔放な曲です。テナにしては珍しくエフェクトを使った音が少なく(間奏には登場しますが)、メロディーのアレンジで個性を出している曲ですね。複雑なリズムの変化の上をふわふわと乗りこなすキーボードのメロディーラインは、エフェクトがたっぷり効いた他の曲とはまた違った魅力があります。
「BE P!NK」
アルバム「VIVI de VAVI de LOVE」収録曲。
テクノやループ系のジャンルを思わせる旋律がキャッチーなメロディーラインで歌われるため、非常に聞きやすい曲です。今までのアルバムには無かった曲調ですね。楽器はドラムスの他にパーカッションも加わっていますが、曲自体がシンプルな分、ライブごとに色んな楽器を入れてどんどんアレンジしていける曲とも言えます。豪華なアレンジを得意とする彼女たちにはぴったりの曲と言えるでしょう。テナのキーボードもいつも以上に気合が入っているように聴こえます。
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